2016年12月27日火曜日

谷崎由依著「囚われの島 またはアステリオスの物語」(文藝2016年冬号)

 朝日新聞の10月の文芸時評で、片山杜秀が、谷崎由依の「囚われの島 またはアステリオスの物語」(文藝2016年冬号)をえらく褒めていたので(と、言ってもその記事が手元にないのでどれほどだったかは、今になっては知るよしもないのだが)、市の図書館から掲載雑誌を借りて読んだ。
 雑誌の目次の添え書きには、中くらいの文字で、「救い」と「犠牲」と「記憶」・・・、著者最高傑作!、とあり、小文字で「次の夢でも、また次の夢でも・・・・・・この世の醜さを集約した「ぼく」を、あなたは救ってくれますか? 蚕を飼う盲目の男に魅入られた女の、時を超えた記憶をめぐる物語。」、とある。しかし、これだけ読んでもなんだか分からない。
 原稿用紙360枚の長篇で三部からなる構成になっている(あらすじの詳細は、群像2016年12月号創作合評から抜粋した添付の図を参照してほしい)。

 本編が始まる前の扉には、以下のようなギリシャ神話の一部が引用されている。
「そこで彼女はアステリオス、すなわちミノタウロスと呼ばれる者を産んだ。その顔は雄牛、残りの身体は人間だった。ある神託を聞き入れたミノス王は、彼をラビュリントスへ幽閉した。ラビュリントスはダイダロスの手になる建築で、からまりあった螺旋の道が出口を眩ます迷宮だった。ーアポロドーロス『ギリシャ神話』」

 第一部は、主人公の新聞記者静元由良が、整った顔だちをした盲目の調律師に魅せられ、徳田の家に通い出す、という話しだ。徳田が子どもの頃から見ている、自分を誰かが殺しにやってくるのではないかという夢が、由良がいつも見ている夢と一緒であった(徳田の見る夢は舟を待っている化け物の夢、由良の見る夢は舟に乗って島に行く夢)。徳田は蚕を飼っている。そのせいか、由良は「父親のない子どもたち」という不思議な題名の養蚕をめぐる連載企画を会社で提案する。しかし、愛人である上司の伊佐田は、自分に対する直近の由良の態度に不審なものを感じ、全く評価せずに却下する。
 第二部は、まゆうという女性の語る、由良川が若狭湾に注ぐ辺りにある、養蚕で栄えた村の不思議な物語になる。 時代は世界恐慌のあった頃だ。村には入り江があり、蓋をするように、当時は神島(かむじま)と呼ばれていた島があった。島には蚕の神様がいることになっていた。遠い遠い昔、目の見えない男の子が生まれた時に、村人はその島に閉じ込めてしまった。その子が蚕にそっくりな挙動をしていたので蚕の島と言われたらしい。養蚕を島ぐるみで止めるとなった時に、まゆうがとても親しくしていた”みすず”が産んだ、誰の子だか分からない”すずな”が人身御供のように、その島に置いてきぼりにされた。
 第三部は、由良の同僚の杉原が、由良の提案した企画を引き継いだところから始まる。由良は辞職し、行方不明になっていた。杉原は、あるときバスの中で、盲目で妊娠しているような身体の由良らしき女を見る。由良は徳田のいた部屋で蚕を飼っていて、自らの身体を虫食まれていた。そして徳田は自由になった(目が見えるようになって(?)出て行った)。

 著者はなかなかの文章家だと思う。そのせいか、第二部は特に引き込まれるように読まさせられた。
 第二部は、伝承話(昔語り)だ。しかし、第一部、第三部は現実(?)の話し。この現実と伝承が、どう絡み合っているのかが分からなかった。第二部だけでは物語は成立しにくいのだろうが、現実の話しとの絡みが分からなければ、第一部と第三部の意味合いが薄く(?)なる。特に第一部の由良と上司が肉体関係(不倫関係)にあるという設定は必要だったのだろうか。
 また、扉に書かれたギリシャ神話と第二部の昔語り及び第三部の由良と徳田の行く末との内容が重なっているようで重なっていないように思えるのは私だけではないようだ。群像の創作合評でも、片岡義男、石田千、野崎歓の三氏はそれぞれの理由は違えど、分からない、分かりにくいを連発している。

 分かりにくい作品ではあるが、これは次回の芥川賞の選考俎上に乗るのではないか。優れた対抗馬がなければ、受賞の可能性もある、と私は思う。

 余分な話かも知れないが、由良川と養蚕、そして神がかりの女性の出身地という話から、第二部に出てくる村は兵庫県の綾部(大本教開祖・出口なおが養女として移り住んだ町)と推測した。また、神島(かむじま)というのは福井県の若狭町にある御神島(おんがみじま)ではないか?由良川は、若狭町とは少し離れているが、若狭湾にそそいでいる。
 これらのことより、醜い男というのは、若狭町にはないが、若狭湾に多い原子力発電所とも考えられる。この作品が、何か(誰か)の犠牲の下に、原発が救われた話と考えるのは、うがち過ぎだろうか?

 最後に、これを書き終わる頃に図書館でコピーした朝日新聞の文芸時評を添付する(群像の創作合評も含め、このようなコピーを勝手にアップしてはいけないのだろうが、日本の書籍・新聞の売り上げ向上のために寄与すると思って許して頂きたいwww)。