受賞作すべてというわけではないが、これまでかなりの芥川賞作品を読んできた。
発表と同時に読み始めたのは、高井有一の「北の河」だったか、丸山健二の「夏の流れ」からだったと思う。「夏の流れ」に関しては、それまでの最年少(23歳)受賞ということもあり、また内容、文章ともに新鮮に感じ、卒業して間もなく、高校時代の恩師(国語、書道担当)の自宅を訪問した際に、僭越ながら、一読するよう勧めた記憶がある。
今回の受賞作は、近年続いた、やや奇を衒った作品と違い、文章も落ち着いていて、内容も日常生活に根ざしていた。楽しく読ませてもらった。
主人公は、薬品を取り扱っている会社勤めで、東京の親会社から三年の予定で盛岡に出向で来ている。ふと会社で知り合った日浅は、四十過ぎの現地採用の非正規社員。釣り好きな彼に連れられて、主人公はあちこちに行き、自分も好きになる。しかし、日浅は、今の会社での地位に将来性のないことから、転職してしまう。その後、日浅の動向や再会、主人公の性慾傾向、東日本大震災以降の日浅の行方不明などが綴られる。
選者の山田詠美、吉田修一が言っているように、受賞者の文章や語りは上手い。しかし、村上龍が言っているように、「作家が伝えようとしたこと」は、「発見」出来なかった。この作品が処女作ということなので、次作に期待したい。