2018年11月1日木曜日

紗倉まな著「春、死なん」(群像2018年10月号掲載)

 
 七十歳の性を描いているという広告を見て、即座に図書館に予約した。私が書いてみたいテーマだったからだ。

 作者である紗倉まなは知らなかったので、雑誌の最後に載っている執筆者一覧を見ると、<AV女優、作家。93年生。『最低。』『凹凸』>とある。えっ、AV女優。二十四、五歳。若い!なんでそんな人が高齢者の性について書くの?、と思った。AV女優なら書くことは過激ではないか?話題作りで、ストーリーも文章も適当ではないか?など、読む前から眉に唾をつけた。
 念のためにウィキペディアを見ると、国立の木更津工業高専の環境都市工学科卒で、処女作『最低。』が映画化されるらしいし、AV女優としても有名らしい。

 前振りはともかく、作品であるが、ストーリーも過激ではなく、文章もしっかりしていて、良い意味でも悪い意味でもがっかりした。
 主人公は、妻を亡くした七十歳。アダルト雑誌やAVを見て、性の衝動を自分で処理している。ある時、タバコを吸うために病院のそばの喫茶店に入ると、店の女主人からトミーじゃない、と呼びかけられる。彼女は、昔の大学の短歌サークルで一年後輩だった文江(フーミン)で、夫に先立たれ、子供もいない一人暮らし、という。トミーは同じサークルの喜美代と結婚したのだが、結婚直前に文江と一度だけベッドを共にした。文江にしてみれば、自分が恋人を奪われたので、同じようにしてやろうと思って、寝たらしい。そんな二人だけど、自由の身となり、ルンルン気分でラブホテルに入って事を為す。しかし、そのあとでトミーの前に喜代美が現れたり、トミーが自宅に帰ると部屋の中が黒い貝で一杯になっていたりする。

 七十歳の男にも六十九歳の女にも性の衝動は現代のテーマになりうる。加えて、母と一人息子の関係や息子夫婦の感情のもつれなど現代のどこにでもありそうなテーマも描いている。

 作者には、それなりに力量はあるとも思えるが、作品の中に読者を引きずり込むような意外性は感じられなかった。凡作である。次回作品に期待したい。