2018年12月12日水曜日

谷崎由依著「鏡の中のアジア」


 この作家の作品を初めて読んだのはもう2年前になる。”文藝”に掲載された囚われの島 またはアステリオスの物語だ。とても文章が上手く、またストーリーも良くできていて感心した。今年の7月に出版された「鏡の中のアジア」という本を、書店で見つけ、その題名にも興味が惹かれたこともあり、早速、市の図書館から借り出して読んだ。
 あいも変わらず、文章は上手い。流れるようで詩的でもある。5作の掌編、短編、中篇が収められているが、いずれもストーリーらしきものは明確でなく、ファンタジックな物語である。会話らしきものは少なく、ページ数、文字数より多く感じ、読むには力がいる。作品にはそれぞれアジアの地名(国名)が付されているが、ストーリーからは、それ程、その都市(国)を認識できない。特に「天蓋歩行」。ストーリーよりも(詩的な)文章を読むのが好きな人には、一読に値する作品だと思う。推奨する。