2020年12月25日金曜日

金原ひとみ「アンソーシャル ディスタンス」

  『コロナ禍の現在を先取りしていた作品』、と朝日新聞に書かれていたので、図書館で雑誌(新潮 2020年6月号)を借りて読んだ。

 最近の金原の作品は特にそうなのだが、自堕落な生き方をしている若い人たちを描いているものが多い。この作品も、積極的に生きていない、また死のうともしない男女大学生二人のダラダラした生活や会話から成り立っている。女・沙南の堕胎手術のシーンから始まる。恋人・幸希との子供である。時はコロナ禍。幸希の母は繊細で過敏であり、外出から帰ってきた幸希に対してうるさく手洗いなどを要求する。息子に対して過干渉である。夫が単身赴任で不倫をしていることでイライラしていることもあるらしい。

 二人は沙南がパパ活で得た金で飲み食いしたり、ラブホでセックスする。

 幸希は自分の考えを持たず、相手が気にいるように生きている。恋人の沙南に対してもそうであり、心中しようと言われて、反論もせずに鎌倉に3泊4日の死出の旅に出る。その元手も祖父から得た就職祝いの10万円である。

 結局、幸希の曖昧な話しで沙南の気持ちは揺らぎ、心中はしないで帰ることになる。

 若者二人の取り留めのない、どうでもいいような生活や会話で構成されているのではあるが、ここには今の社会の暗さや、不平等への不満が溢れているような気がする。ただ、金原ほどの練達の作家であるならば、もう少し書き様があったような気がする。次の作品に期待したい。