今年上半期(第159回)の芥川賞は、高橋弘希氏の「送り火」に決まった。氏は「指の骨」で、2014年の新潮新人賞を受賞しており、その作の評判が良かったことから、最終候補作四作に絞られた時、受賞の可能性が高いと思われた。だから、受賞が決まった時、驚きはなかった。
受賞できなかった三作は読んではいないが、確かに「送り火」の文章力は素晴らしい。しかし、私はいくつかの点でやや違和感を覚えた。例えば、不必要に熟語が使われていること、時代背景は現代だと思われるが登場人物の知識がやけに昔のことに詳しいこと、描かれている場所は山村と思われるが、なぜか無人の銭湯があることなどだ。そうは言っても、その文章力に惹きつけられて最終エピソードまでスムーズに読むことができた。東京から引っ越してきた主人公は、中学三年生。クラスの人数は少なく、男子全員いつも連れ立って遊ばなくてはならない。そこで中心となる晃の行動に理不尽さを感じるが、拒否や抵抗するほどの極端なことはない。
だが、最終エピソードを迎えると、彼ら以外の人物ー卒業生ーが現れて、全く信じられないような暴力沙汰が始まる。ここから先は、読んでもらった方が良い。その暴力を、作者が描く必然性はあったのだろうか?そして、その暴力は何を意味するのだろうか?
私は、小説に描かれるエピソードには、描かれるべき必然性がなければならないと思っている。この最終エピソードに、必然性は感じられなかった。作者の内在的な闇が現れ、その衝動に突き動かされて筆が動いたとしか思えない。
選者の一人である高樹のぶ子は、選評を読むと私と同じように感じたらしい(添付画像参照)。また、川上弘美氏もこう書いている、「読後わたしは、どこにも行けないような気がしてしまったのです。」。また、宮本輝氏は、「最後の場面は残酷で、主人公の少年はこのまま殺されてしまうのかと、その不当さに首をかしげざるを得ない。」、と書いている。
そうは言っても、多数決とは言え、多くの選者に推薦され芥川賞を受賞した作品です。ぜひ、一読されることをお勧めする。
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