2019年8月26日月曜日

山口百恵 著「蒼い時」

 私は若い時、山口百恵のファンであった。新宿コマ劇場で開催された「百恵ちゃんまつり」にも、一度ではあるが、静岡から見に行った筋金入り(笑)のファンである。
 その私が、今更ながら初めてこの本を読んだわけは、終活の一環である。決して彼女が、直近、キルト作品集(写真集)を出したからではない。最近、終活の一環として、好きな作家の書いた小説を読んだり、好きな女優が出演している映画(ビデオ)を見たりしているからだ。平均寿命の歳まで、あと10年強となり、あらためて好きだった人を堪能したいためだ。
 この本を今まで読まなかったのは、読むのが怖かったためではない。引退する歌手が書いた内容に意味を認めなかったためだ。今回読んでみて、それが正しかったとは思えなかった。当時の彼女を理解するには、適切な作品であった。
 芸能界という特殊な世界に8年間身を置き、21歳という未だうら若い年齢で結婚する女性。しかも、当時もっとも人気のある歌手が書いたにしては衝撃的な内容ではあったが、彼女の嘘のない気持ちが書かれていた。
 内容や構成は、プロデューサーの残間里江子が考えたのだろう。良くできている。発行されたのが1980年というせいか、今の時代から見ると「随想」以外は、表現が硬いのだが。私の感想は以下の通り。
序章 横須賀:
 横須賀への愛が溢れている。住んでいる私にとっては、とても嬉しい
出生:
 彼女は認知はされているものの嫡出子ではなかった。自分勝手な父への憎悪と、子供を産んで苦労した母への感謝が綴られている。生きることに真摯な彼女を私はあらためて好きになった
性:
 出会ってきた”性”というものに、正面から向き合ってきた姿が赤裸々に語られている。こんなことまで書いて良いのだろうか、と思わせられる
裁判:
 いい加減な記事を書いた雑誌の編集長らへの名誉毀損の告訴裁判に証人として立った時の彼女の気持ちの動きを事細かく書いている。20歳になったばかりの女性にしては気丈に対応している。小さい時から、しっかりしていたのだろう。あるいはそうせざるを得なかったのかもしれない
結婚:
 友和に初めてあった時から結婚を決めるまでの彼女の気持ちを、時系列で記している。彼女にとっては、幸せな結婚をすることが母へのプレゼントだったのかもしれないと思う
引退:
 引退を決意し、実現させるまでの経緯が書かれている。結婚直前なのだから当たり前かもしれないが、愛する人のためだけの自分になりたい、との気持ちが強く出ている。21歳、彼女はまだ若かった。でも、人生一本道、戻ることはできない。二人の子供を産み、60歳まで離婚もせず暮らしてきた。それを思うと、彼女の選んだ道は正しかったのだろう。そう思いたい。 
随想:
 この章は、前の五つの章に比べて文章が柔らかく、彼女の言葉でそのまま書かれているようである。
 スター誕生、劣等感、数字、少女、歌、新聞配達、予見、化粧、喝采、夢、色、髪、嫉妬、死、友達、金銭感覚、特別、妹、海
 それぞれのページ数(文字数)は少ないが、21歳まで生きてきた彼女の姿、形がスーっと頭に入ってくる。読んでいて楽しい章である。
今、蒼い時:
 まとめ、とも、あとがきとも思える章である。この作品をどのようにして書いてきたか、そしてこれまで関わってきた人たちへの感謝の言葉と、そして未来を見つめる彼女の言葉が記されている

 読み終わって感じるのは、自分が思い描いていた山口百恵という姿に間違いはなかった、ということである。あの端正な顔と真摯に生きる姿が、私に彼女を好きにさせたのである。

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