2022年1月11日火曜日

外岡秀俊 著「北帰行」「傍観者からの手紙」「アジアへ」

  外岡秀俊さんがお亡くなりになられた。私のデータベースを見ると、以下のようなことが書かれていた。

「北帰行」(1976年1月刊)
(内容)
『一握の砂』をかかえて、青春は北へ旅立った。苦汁にみちた炭鉱での少年期、そして上京後の挫折を記憶に甦らせながら…。石川啄木の軌跡に現代の青春を重ね、透明な詩情と緊密な思索が交響する青春文学の不滅の名作。
(感想)
文体も構成もストーリーもしっかりしていて処女作とは思えなかった事を記憶している。今回読んでも同じ感想を持った。しかし、今読むとストーリーが古めかしい感じがする。そして、このモチーフは何故?という感じもする。
今は朝日新聞の記者として、やや保守的で冒険しないレポートを書いているが、60歳に近くなった外岡の新しい小説を読んで見たい気もする。(2010年8月31日 記)

「傍観者からの手紙」(2005年8月刊)
(内容:AMAZONより)
2003年3月イラク戦争前夜からロンドン同時多発テロ事件まで55通。この困難の時代に、現場取材と時局分析を届けつづけた朝日新聞ヨーロッパ総局長の報告集。
「ロンドンの事件の前後にも切れ目なく、イスラエルやイラクからは自爆テロや戦闘による死傷の報道が流れています。昨日もまた、イラクでタンクローリーを使った自爆テロが起き、70人以上が亡くなりました。9・11事件後、世界中を覆い始めた社会の砂漠化が、とうとうロンドンにまで来てしまった。残念ですが、それが実感です」
2003年3月、イラク戦争前夜。朝日新聞ヨーロッパ総局長としてロンドンにデスクを構えていた著者から、一通の手紙の形式で原稿が送られてきた。「この手紙が届くのは一カ月後です。瞬時に地球の裏側に電子メールが届くいま、なぜそんな悠長なことを、と思われるかもしれません。ただ私は、そんな時代にこそ一月遅れの手紙が新しい意味をもつような気がします。」
以来、2005年7月のロンドン同時多発テロ事件まで55通。歴史や文学作品というフィルターを通しながら、現場の取材と困難な時局の分析を記した本書は、ひとつの時代のかたちを定着させようとする試みでもある。
(感想)
「他人の言葉に対する寛容は時に、自分が言葉に重きを置かない人の怠慢の証です。怒りを忘れない人は、言葉で戦っている人は、日本に住むあなたの周りにいるでしょうか」
文藝賞をもらった「北帰行」を読んだ時、将来、有望な作家が誕生したと思ったのは私だけではないだろう。その後、小説は書かず、朝日新聞で見かけたその名前がいつも気がかりであった。本屋で立ち読みしたこの本の続刊である「アジアへ」が面白そうなので、この本から読み始めた。
期待は裏切らなかった。無駄のない張りつめた文章、豊富な知識、見識の高さ、どれをとっても一流である。しかし、聲高でもなく、浮ついてもいないのが読む者を安心させる。お勧めの一冊である。導入の文章も美しい。(2010年7月26日 記)

「アジアへ」(2010年2月刊)
(内容:AMAZONより)
〈欧州にいた頃から、私の関心は少しずつアジアに向かって引き寄せられていった。
経済成長が著しく、社会が激動期に差しかかっているという理由だけではない。
日本が置かれた混迷と閉塞は、その遠因を近代の「脱亜入欧」に遡って読み解くしかなく、その打開の方途もまた、これからのアジアとの向き合い方に開かれているように思えた。その意味で、私の関心は、アジアそのものというより、いつも、「アジアから見える日本」にあったという方が正確かもしれない。これらの文章で、成否はともかく、私は時事問題を追うよりも、社会現象を通して歴史の軸心に遡ろうと試みたが、それは仕事柄、目先の出来事に振り回される心の平衡を保つためだったともいえる。「混迷」は時として、烈しく揺れ動く現実に追いつかない感性の惑乱であり、「閉塞」も、現実に目をふさいで平穏を得ようとする精神の懶惰を指すのかもしれない。雑事に追われた日々、これらの文章を書き継いでいくことが、私にとってはただ一つ、惑乱と懶惰にとらわれず、
現実に向き合う拠り所を与えてくれた〉
ロンドン、東京、香港を拠点に、世界を、アジアを、そして日本をみつめる著者が届けつづけた55通の手紙。
一方でのジャーナリストとしての取材の緻密さと論理構成、他方での文学的筆力と想像力が合わさった、過去と未来の間をめぐる記録(2005-2009)である。 
(感想)
基本的に第一冊目と変わらないのではあるが、ロンドンで見る目と東京に戻って、そしてさらに香港に移ってからの目は少し違う。何が違うかのかはうまく説明できないのであるが、やや落ち着きを失って、格調が落ちているような気がする。年齢もあるかも知れない。(2010年6月1日 記)

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