「推し、燃ゆ」で第164回芥川賞を受賞した作家のデビュー作である。
いずれその作品も読むつもりではあるが、『推しが炎上した。ままならない人生を引きずり、祈るように推しを推す。そんなある日、推しがファンを殴った』(「BOOK」データベースより)、という推しアイドルと主人公の物語らしい作品より、”母と娘”の物語らしい作品に興味を抱いた。
「BOOK」では、下記のようにストーリーを要約している。確かに文字にすれば、そのようだろう。しかし、読んだ印象は、もっともやもやしている。
選考委員の磯崎憲一郎は、第163回芥川賞作家になった、同時受賞の遠野遥との対談で「僕は、小説は語り口がいちばん大事だと思ってます。(中略)昨今は小説が売れないから、意味に回収できる小説の方が、説明しやすくて共感させやすい、つまり出版社が売りやすい。でも、古井由吉さんも金井美恵子さんも、語り口で書いているんですよね。(後略)」
確かに、私も、物語りの面白さよりも、その意味することを求める傾向にあるし、意味が認められると理解した気になる。
では、この作品はどうか。主人公は、”かか弁”なるもので話しを進めていく。これがとっつきにくく、すぐに読むのを止めたくなった。しかし、我慢して読み進むうちに、少しずつ慣れてきて集中できるようになった。
磯崎は選評で、「「かか弁」でこの作品書いたことが、完全に失敗している、・・・」、と言っており、確かに普通の語り口で書いたらどうなるのか、磯崎の言うようにもっと良くなるのか、知りたい気もする。
(閑話休題)
主人公であるうーちゃんは、母が入院する日に、熊野に旅立つのだが、その後のリズムが素晴らしく、それだけで受賞したのだと思われる。宇佐美は、選考委員である村田沙耶香との対談で、「どちらからいうと結末から決めて書いていたので、・・・」、と言っており、彼女が熊野でのうーちゃんの思考や行動に力を入れて書いた、というのは事実だろう。だからといって、後半だけ読むならば、この作品の面白さは味わえないと思う。
作品の内容(「BOOK」データベースより)
19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親=かかのことで切実に悩んでいる。かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになった。鍵をかけたちいさなSNSの空間だけが、うーちゃんの心をなぐさめる。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位…自分を縛るすべてが恨めしく、縛られる自分が何より歯がゆいうーちゃん。彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へと旅立つ―。未開の感性が生み出す、勢いと魅力溢れる語り。痛切な愛と自立を描き切った、20歳のデビュー小説。
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