2014年8月14日木曜日

水村美苗の「續明暗」

 今年になって朝日新聞では漱石の「こころ」を100年ぶりに連載している。私も朝日新聞が無料配付している「こころノート」をもらい、スクラップしている。はや80回目という事で「こころノート」は3冊目になった。余談だが、孫が読めるようになったら、渡そうと思う。(閑話休題)
 そんなこともあるせいか、巷ではちょっとした「小さな漱石ブーム」になっていて、漱石に関する本の出版が今年は多いように見受けられる。

 ところで、漱石の「明暗」が彼の死によって未完に終わったのは周知の事実である。その未完の小説の続きを書き、終わらせたのが水村美苗である。 それは1990年に出版され話題になったが、私は「際物(きわもの)」ではないかと思い、直ぐには読まなかった。その後、続けて出した「私小説 from left to right」、「本格小説」も評判が良く、また2009年に出した日本語についての本3冊(「日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で」、「日本語で読むということ」、「日本語で書くということ」)もマスコミを賑わしたことから、初めて読む気になった(読んだのは2009年出版のちくま文庫版)。
 読むとこれが大変面白い。私は直ぐに水村美苗のファンになってしまった。その水村美苗のインタビューが、今週5回連載で朝日新聞の夕刊に載っている。
 初回(2014年8月11日掲載)には、書いたときの心境が載っている。
 「一番楽しみながら書けた小説」、「日本語で書く喜び」、「言葉を拾うために、漱石を毎日読む喜び」、「漱石は物語を離れた細部がとてもいいが、自分はまず物語を強く出さねばと」、「『明暗』は、ちょうど勢いづいたところで途切れている。続きが読めないのが腹立たしく、それが書き継ぐことを可能にした」等々。
 水村美苗は12歳から20年間アメリカに住んでいる(現在は日本在住)。その間にプリンストン大学でフランス文学を勉強すると共に、フランスにも留学。アメリカに戻ってからプリンストン大学の講師として近代日本文学を教えていた、という異色の経歴の持ち主であるが、若いときに日本の近代文学を読み、親しんだ。そして、その綺麗な日本語が、日常(アメリカでは)、話せないのを腹立たしく思っていた人間だから、「續明暗」が書けたのだと思う。是非、一読される事をお勧めする作品である。

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